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「か/は歯(ka/ha)、かむ噛(km)/はむ歯*食(hm)、かぶる(kb)」
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か(歯)「か(歯)」「うか(食)、うかのめ(女)、うかのみたま(御魂)」
-かむ(噛む)-かます(噛ます)-かませる「か/は(歯)」(k-h)「かむだち、かうぢ」
-かまる(噛まる)-かまれる
-かもす(醸もす)
~いかむ(い噛む)
~いがむ(い噛む)(啀む)「いがみあふ啀合」
~きかむ(き噛む)(牙噛む:歯ぎしりする)
~しがむ(し噛む)
~とがむ(と噛む)(咎がむ)〔「砥ぐ-とがむ」か〕
-かぶ(噛ぶ)-かぶる(噛ぶる)「(芝居小屋の)かぶりつき」
-かぶ(黴ぶ)-かびる(黴びる)「かび(黴)、かび(芽)、かび(穎)」
-かぶる(黴ぶる)-かぶれる「(漆に)気触れる」
-かぼす(黴ぼす)
き(牙)「きば(牙歯、牙)」「き(食物や朝食)〔沖縄県石垣島、新城島:日国方言欄〕
~きかむ(き噛む)「きば(牙歯、牙)」
〔日国方言欄によれば沖縄県石垣島や新城島で「き」が食物や朝食の意で使われているという〕
く(食)-くつ「くち口」
-くふ(食ふ)-くはす(食はす)-くはせる
-くはふ(食はふ)-くははる「くはふ(咥はふ、加はふ)」
-くはへる「咥はへる、加はへる」
~たくはふ-たくはへる-たくはへらる「蓄へる」
-くはる(食はる)-くはれる
-くる(食る)-くらふ(食らふ)-くらはす-くらはせる
け(甕)「うけ(食)、みけ(御食)、けこと(食事)、みけひと御食人、おほみけ大御食、とほみけ遠御食、あさげ朝食、
ゆふげ夕食」
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は(歯)-はむ(歯む)「食む」「あは(粟)」「かりはむ刈、もりはむ」(k-h)
ひ( )「いひ(飯)」
ふ( )~あふ(あ饗)-あへす(饗へす)〔食事を供する、饗応する〕「あへ(あ饗)、あへのこと(饗事)」
~いふ(い食)「いひ(飯)」
~たぶ(た食)-たばす(た食す)
-たぶる(た食る)
-たべす(た食す)-たべさす-たべさせる
-たべる(た食る)-たべらる-たべられる
へ( )「け/へ(瓶*瓮*瓶*竈)「いつへ厳瓮、かたへ、かなへ金瓮*鼎、くかへ探湯瓮、さしなへ、つるべ釣瓶、
なべ鍋*菜瓮、はにへ埴瓮、ほへ火瓮、yiつへ厳瓮、yiはひへ斎瓮、よこへ横瓮」
「へつひ竈霊、よもつへぐひ(黄泉竈食*黄泉戸喫)」
「へ(食)」 「あへ(あ饗)、にへ(に贄/に饗)、いけにへ、はやにへ(「に」は不詳)」
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ものを食べるための器官である歯と口、並びにその器官によって食べるという動作、更に食べるものである食物を言うカ行渡り語「か、き、く、け」である。このカ行渡り語はそっくり「は、ひ、ふ、へ」のハ行語に(k-h)相通化している。原初「は歯」は「か」であった。「か歯」を用いた「かむ噛*食」が後に「は歯」を用いた「はむ食」に転じたが、現在のところ「はむ」は古語として成句の中にのみ残り、「かむ」は”食べる”の意はなくし、”噛む”の意のみで使われている。
「あへ(饗)」は現代に生きている。「あへのこと」は奥能登地方で古くから行われている稲の豊饒の感謝と祈願の神事で、毎年霜月五日、御馳走を用意をして田の神を家の中に招じ入れお風呂をすすめたりするというものである。因みにアイヌ語でも”食事をする”は「いぺ」、”食べ物”は「あえぷ(あへぷ)」という。同語であり、歴史上なさまざまな人の動きを示唆する。
なお「たべる」については別に議論するところがある。
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「けが穢(㎏)、にが苦(ng)、こげ焦(㎏)、にご濁(ng)、yiが/ゆが歪(yg)、よご汚(yg)」
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け( )-けが(穢が)-けがす(穢がす)-けがさる-けがされる「けがし(穢がし)」
-けがる(穢がる)-けがらふ「けがらはし(穢らはし)」
-けがれる
こ( )-こぐ(焦ぐ)-こがす(焦がす)-こがさる-こがされる
-こがる(焦がる)-こがれる
~あこがる-あこがれる(憧る)
-こげる(焦げる)
に( )-にが(苦が)-にがむ(苦がむ)「にがし(苦シ)、にがにがし」
-にがる(苦がる)「にがり苦汁」
-にご(濁ご)-にごす(濁ごす)-にごさる-にごされる
-にごる(濁ごる)-にごらす-にごらせる
yi( )-yiが( )-yiがむ(歪がむ)
-ゆがむ(歪がむ)-ゆがめる
よ( )-よご(汚ご)-よごす(汚ごす)-よごさる-よごされる
-よごる(汚ごる)-よごれる
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二拍語の後項が「が、げ、ご」でかつ一般に歓迎されざる状況や状態を言う語を集めてみたもの。この場合、後項の濁音拍が基本的な(歓迎されざるという)意味をもち、前項拍がそれを規定するという役割分担になっていると考えられる。
なお「あこがる」については「かる(離る)」の項を参照乞う。
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「かく舁(kk)、かみ上(km)、かる上(kr)」
「あぐ上(&g)、あふ仰(&h)、うく浮(&k)、うく受(&k)、おく起(&k)、おぐ驕(&g)」
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か(上)-かく(舁く)「かき上げる」
-かみ(上み)「かみ上」
-かる(上る)
く( )~あぐ(上ぐ)-あがる(上がる)
-あげる(挙げる)-あげらる-あげられる
~あふ(仰ふ)-あふぐ(仰ふぐ)-あふがす-あふがせる「あふのく仰伸、あふむく仰向」(k-h)
-あふがる-あふがれる「仰ぐ、仰げば尊し」
-あふる(呷ふる)〔顔を上げて飲む〕
~うく(浮く)-うかす(浮かす)-うかせる(受く)
-うかぶ(浮かぶ)-うかばす-うかばせる
-うかばる
-うかべる-うかべらる-うかべられる
-うかむ(浮かむ)
-うかる(浮かる)-うかれる「うかれひと浮人/浮浪、うかれめ遊行女婦」
-うくる(受くる)
-うけふ(誓けふ)「うけひ誓約」
~うく(受く)-うくる(受くる)
-うけふ(受けふ)「誓けふ、うけひ誓」
-うける(受ける)
~おく(起く)-おきる(起きる)
-おこす(起こす)
-おこる(起こる)
~おぐ(驕ぐ)-おごる(驕ごる/奢ごる)
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上の方に”上げる”意のカ行渡り語「か、く」である。アイヌ語でも「上、表面」を表わす拍は「か」である。
なお「う/うへ(上)」については「へ」の項で触れる。
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「欠く(kk)、消ゆ(ky)、くゆ(ky)、くる(kr)、けす(ks)、けつ(kt)、けぬ(kn)、ける(kr)」
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か(欠)-かく(欠く)-かかす(欠かす)
-かくす(欠くす)-かくさす-かくさせる「隠す」
-かくさふ
-かくさる-かくされる
-かくせる
-かくふ(欠くふ)-かくはす-かくはせる「囲ふ」
-かくはる-かくはれる
-かくむ(欠くむ)-かくまふ-かくまはる-かくまはれる「囲む」
-かくまる-かくまれる
-かくる(欠くる)-かくらふ「隠る」
-かくれる「隠れる」
-かくろふ
-かける(欠ける)「欠ける」
-かこふ(欠こふ)-かこはす-かこはせる「囲ふ」
-かこはる-かこはれる
-かこむ(欠こむ)-かこます-かこませる「囲む」
-かこまる-かこまれる
-かす(欠す)「消す」
き(消)-きゆ(消ゆ)-きyeる(消yeる)
-きる(消る)
く(消)-くゆ(消ゆ)
-くる(消る)-くらす(消らす)「立山の雪しく(消)らしも」(m4024)
け(消)-けす(消す)-けさす(消さす)-けさせる「けのこる(消残る)、ゆきげ(雪消)」
-けさる(消さる)-けされる
-けつ(消つ)
-けぬ(消ぬ)
-ける(消る)「たまげる」
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物や人がない、いない、見えない、また無くすことを言うカ行渡り語「か/き/く/け」である。和人は、物や物かげが視界からなくなる、存在しなくなることのさまざまな面を、上図のように、カ行渡り語でまとめて表現している。おそらく「こ」もある、或いはあったであろうがぴったり来るものは今のところみつからない。和語の論理性の高さを示す重要な語群である。
「欠く-かける」は、現在では茶碗の縁がこぼれたり、チームのメンバーが居なくなったり、特に一部分が欠損することに使われるが、これは新しい使い方であろう。
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「嗅ぐ(㎏)、香wu(kw)、気る(kr)、い気(&k)、お気(&k)」
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か(気)-かぐ(嗅ぐ)-かがす(嗅がす)-かがせる-かがせらる-かがせられる「か香、かぐ(嗅ぐ)、さか/さけ酒」」
-かがふ(香がふ)
-かがる(香がる)-かがれる
-かwu(香wu)-かをる(香をる)「かをり(香*薫)」
き(気)-きる(気る)-きらす(霧らす)「きる(霧る)」「あまぎらす天霧、うちきらす打霧」
-きらふ(霧らふ)「あまぎらふ天霧、たなぎらふ棚霧、みなきらふ水霧」「まぎらはし」
く(気)~いく(い気)-いかす(い気す)-いかさる-いかされる「いき(息)、いく(生く)、いかす(生かす)」
-いかせる
-いきむ(い気む)「いきむ(息む)」
-いきる(い気る)「いきる(生きる)」
-いける(い気る)「いける(生ける)」「花を活ける」「いけ池」
-いこふ(い気ふ)「いこふ(憩こふ)」(息を継ぐ)
~おく(お気)-おこる(お気る)「おこる(怒こる)」「おき(息)、おきなが(気長)」
け(気)「けはひ(気延*気這)、けどる(気取)」
こ(香)「こり(香)
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気体、空気、気配を言うカ行渡り語である。このうち今日でも「か/き/け(気)」は多くの場面で使われるが、「く」は「いく(息く、生く)」に残っている程度のようである。この「く」は単なる動詞語尾ではなく、これこそが語の意味を担っている。和語では”生きるとは息をすること”であると明快である。
「さか/さけ酒」は、本来は酒を液体ではなく香気として捉えていたと考えられる。「さ」は「さつき、さなぶり、さなへ、さをとめ」などの「さ」で別稿のように”稲”の意である。
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「か赤/黄き/紅く/朱け/こ黄(ka/ki/ku/ke/ko)、かく/かぐ赤(&k/kg)、くれなゐ紅(kr/hr)、あけ朱」
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か(赤)「か、あか赤」
-かく(赤く)-かかゆ( )-かかやく(赫かやく/輝かやく)
-かかよふ(赫かよふ)
-かぐ(赤ぐ)-かがす(赤がす)「かが/かげ/かご影」
=かがゆ(赤がゆ)-かがやく-かがやかす-かがやかせる「輝く」
-かがよふ(赫がよふ)
-かがる(赤がる)「かがり火」
-かぎる(赤ぎる)-かぎろふ「かぎろひ、たまかぎる玉輝」
-かぐる(赤ぐる)
-かげる(赤げる)-かげらす-かげらせる「ひかげるみや日輝宮」「かげ影」
-かげらふ
~あか(あ赤)「あか(赤)」
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き(黄)「きいろ黄色」
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く(赤)「くれなゐ(紅)、ふれ(赤/アイヌ語)」「くがね黄金」
~あく(あ赤)-あかす(あ赤す)-あかさる-あかされる(明かす)「あか赤、あき秋、あけ明*朱」
-あかぶ(あ赤ぶ)-あかばむ
-あかむ(あ赤む)-あかめる
-あかる(あ赤る)-あからぶ
-あからむ-あからめる
-あかるむ
-あきる(あ明る)「あき秋」
-あける(あ明る)「夜が明ける」「あけ明*朱」
~いく(い赤)-いかる(い怒る)-いからす-いからせる「怒る」
-いきむ(い熱む)-いきまふ-いきまはる「熱む」
-いきる(い熱る)-いきれる「熱きる」
-いくぶ(い憤ぶ)
-いくむ(い憤む)「いくみうらむ」
-いこる(い熾る)「熾る」
~おく(お赤)-おきる(お熾る)(熾く)「おきび熾火」
-おこす(お熾す)「ひおこし火熾」
-おこる(お熾る)
~しく(し赤)-しかる(し叱る)-しからる-しかられる「叱る」(&-s)
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け(朱)「あけ明、あけ朱」
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こ(黄)「こがね(黄金)」
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われわれに身近な二拍語「あか(赤)」は、ア接語で本来は一拍語「か(赤)」である。「か赤*明」は、現在では「かっかする、かーっとなる」程度しか使われないが、その「か」である。そのことは唱歌『夕日』(葛原しげる作詞)の「まっかっかっか 空の雲 みんなのお顔も まっかっか」に端的に現われている。ものを「加熱」すると「赤く」なって「発熱」し「発火」するに至る一連の事態を表わすカ行縁語群の代表である。なお本来の一拍語「か赤」に接頭語「あ」がついて二拍語「あか(赤)」が成立した過程は上記のように二通り考えられる。
「あき秋」は、上記「あく(あ赤)」の名詞形に当たり、「あ+き(赤)」と解される。全山紅葉のときというに尽きる。山が真っ赤になるときが「あき」である。和人はこれを愛でた。日国「あき秋」の語源説欄に「草木が赤くなり、稲がアカラム(熟)ことから〔和句解・日本釈名・古事記伝・言元梯・菊池俗言考・大言海・日本語源=賀茂百樹〕」とあり、これが正解であろう。
「いく(熱く)」も今日の「いかる」や「いきむ」があるように熱が上がって顔が赤くなる意である。時至って女が「いく」のもこれである。どこへ行くのでもない。「いかる怒」は人が発火した状態を言うであろう。「おく(熾く)」は、言うまでもなく赤い火が起きる意であり、火鉢の炭が赤くなることである。「おきび熾火」の「おき」である。 「かぐ(赫ぐ)」をもととする(kg)語には「かがち、かがり火、かぐつち、かぐやひめ」などがあり、いずれも赤く輝く様を言っている。
明るい光線を言う「かげ」は同時にそれがつくる黒い影(陰*蔭*翳)をも指す。これは光の輝くさまから暗く翳る状態までを和人が「かげ」と捉えたことによるものであろう。そのうち輝く方は「ひかり」に圧倒され「かげ」は暗い影をのみ指すようになった。「かげ」も「ひかり」も記紀万葉語である。両者の違いはよく分からない。「yiなびかり(稲光)」があるところから、大陸からの稲の到来にかかわりがあるのかも知れない。
「くれなゐ(紅)」の「くれ」は「あか赤」の意で「なゐ」は不詳である。「く(赤/紅)-くる/くれ」があったものと考えられる。「くれ」はアイヌ語「ふれ」と同語である(k-h)。赤い光や色を言う「け」は「あけ明」「あけ朱」などと今日も多用されている。
現在の色名である「あか赤、き黄、くがね黄金、くれなゐ紅、あけ朱、こ(黄金色)」は一連の色として捉えられえていた。
なお「あく(開く)-あける」は、上記「あく(赤く)」とは全く別語で、「わく(分く)-わける」の(w-&)相通語であり、その箇所で扱う。
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か( )-かく(皹く)-かかる(皹かる)〔あかがり/あかぎれ皹〕m3459
-かる( )=かかる(皹かる)
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検討の材料である。「かく/かる-かかる皹」と「きる/きれ切*皹」の関係も不詳である。
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「かさ瘡、かす滓(ks)、かた/きた汚穢(kt)、くつ朽*降(kt)、くさ臭/くそ糞(ks)、あか垢(&k)」
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か( )-かさ(瘡 )「かさ瘡、かさぶた瘡蓋、かす滓*粕、いもかさ疱瘡」
-かす(滓 )「かす糟*滓*粕、はかす歯糟」
-かた(穢陋)「かたなし(汚し)」〔「かた」がいっぱい〕
き( )-きた(汚穢)「きたなし(汚し)」〔「きた」がいっぱい〕
く( )-くつ(朽つ)-くたす(朽たす)「言い朽す、思ひ朽す」「くたかけ朽鶏、しほくつ塩朽、wuのはなくたし」
-くたつ(朽たつ)
-くたる(朽たる)-くたれる「ねくたる寝腐、みくたる身腐」
-くちる(朽ちる)
-くたつ(降たつ)「あかときくたち暁降、ひくたち日降、もちくたち望降、よくたち夜降」
-くたる(降たる)
-くさ(臭 )「くさし臭;くさ瘡、くろくさ黒瘡、みづくさ水瘡」(t-s)
-くす(腐す)-くさす(臭さす)-くささる-くさされる「くさ瘡、くさし臭、くそ(屎*糞)」(t-s)
-くさむ(臭さむ)~やくさむ〔病気になる〕
-くさる(腐さる)-くさらす-くさらせる(t-s)
-くせ(くせ)-くせむ(臭せむ)「くせもの曲者」
~あく(あ朽)「あく(灰汁)(あくをけ灰汁桶)」「あくた(芥)」
「あか(垢*淦)(あかつく垢附;みづあか水垢、みみあか耳垢、めあか目垢、ゆあか湯垢)」
け( )-けつ(尻 )
こ( )-こせ(瘡 )「こせ/こせかさ痘瘡)」
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有機物が腐敗し、悪臭を放ち、瘡蓋ができる一連の臭い状態を言うカ行渡り語である。本来の「くつ」が多く「くす」に(t-s)相通化している。「くさる-くさし-くそ」と見事につながっている。この時代、鹿一頭を解体しても大量の廃棄物がでるはずであるが、特別に処理されるわけもなく、放置され腐っていったであろう。身体にできたおできは悪臭を放って重症化していったはずである。そのような状況をこのカ行縁語群が表わしている。「け-けつ」はちょっと馴染まないかもしれないが、ほかにもって行くところがないこともあり取りあえず置いておく。
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「かざす翳/かざる飾(kz)」
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か( )-かざ(翳ざ)-かざす(翳ざす)-かざさる-かざされる「かざしあふぎ翳扇」
-かざる(飾ざる)-かざらふ「かざりたち飾太刀」
-かざらる-かざられる
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「かつ勝(kt)」
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か( )-かつ(勝つ)-かたす(勝たす)-かたせる「おもかつ面勝、まかつ目勝」
-かてる(勝てる)
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「かふ肯(kh)、かぶ構(kb)、かむ構(km)、かふ構(kh)、くむ組(km)、くる組(kr)」
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か( )-かふ(肯ふ)-かへす(肯へす)-かへずる(がへんずる)「うけがふ(肯ふ)」
-かむ(構む)-かまく(感まく)-かまける
-かます(構ます)-かまさる-かまされる「(一発)かます」
-かませる
-かまふ(構まふ)-かまはる-かまはれる
-かまへる-かまへらる-かまへられる「みがまへる身構」
-かむく(感むく)-かむかふ-かむかふる
-かむかへる「かんがへる(考へる)」
-かむかぶ
-かむかむ-かむかみる「かんがみる(鑑みる)」
-かぶ(構ぶ)-かばふ(庇ばふ)(「あばふ」「たばふ」の形もあるが不詳)
く( )-くふ(構ふ)「すくふ巣構」
-くぶ(構ぶ)-くばす(配ばす)-くばせる「配ぶ」「めくばせ目配」
-くばる(配ばる)-くばらす-くばらせる
-くばらる-くばられる
-くむ(組む)-くます(組ます)-くませる-くませらる-くませられる「配む」
-くまふ(組まふ)
-くまる(組まる)-くまれる「みくまり水配」
-くみす(与みす)
~あぐむ(あ組む)「足組」(「あがく足掻」と同じく単純に「足組む」とは考えにくい)
~めぐむ(め配む)-めぐまる-めぐまれる「めぐむ恵」(「目を配る、目配りする」意)
-くる(組る)-くらぶ(比らぶ)-くらべる-くらべらる-くらべられる(比較する)
-くらむ(比らむ)~たくらむ「企む」
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この図の核心は「くぶ/くむ(組む)」である。ただ石や木を集めてきて何ものかを組み立てるのではなく、その前にそれらをさまざまに構想し、配置し、最後に何ものかにまとめることを言うであろう。それによって、はじめて「めぐむ」や「くらべる」の由来が見えてくる。「かんがへる」も「かんがみる」も物事に徹底的に「かまふ」「かまける」こととして納得できる。「かぶ、くぶ」はおそらく一拍動詞「ぶ」のカ接語、ク接語であると思われる。「くる(組る)」は「食る」「並る」などと同じく、今日に残らなかった二拍の「る」動詞である。
同様に「みくむ(水組む)-みくまる」は、水を配分する、配給する以前の段階で、水を確保する、水を手配するような意と考えることができる。そうすれば、一連の「くむ/ぐむ」語(あせぐむ汗、おyiぐむ老、つのぐむ角、なみだぐむ涙、めぐむ芽)の「くむ」はここの「くむ/くぶ」とすることができるであろう。
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「かむ頭(km)、かぶ被(kb)」
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か( )-かむ(頭む)-かむる(被むる)-かんむる「かんむり冠」
かぶ(頭ぶ)-かぶく(傾ぶく)-かぶける
-かぶす(傾ぶす)-かぶさす-かぶさせる「wuなかぶす頸傾」
-かぶさる-かぶされる
-かぶせる-かぶせらる-かぶせられる
-かぶる(被ぶる)-かぶらす-かぶらせる
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「離ゆ(ky)、離る(kr)」
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か( )-かゆ(離ゆ)
-かる(離る)「めかる目離」
~あかる
~さかる「とほざかる(遠離かる)」
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「かる刈(kr)、きる切(kr)、くる刳(kr)、けづ削(kd)、ける削(kr)、こる樵(kr)」
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か(刈)-かる(刈る)-からす(刈らす)-からせる-からせらる-からせられる
-からる(刈らる)-かられる
き(切)-きる(切る)-きらす(切らす)-きらせる-きらせらる-きらせられる
-きらふ(切らふ)-きらはる(嫌らふ)
-きらる(切らる)-きられる
-きれる(切れる)
~かぎる(か切る)-かぎらる-かぎられる(限る)
~くぎる(く切る)-くぎらる-くぎられる(区切)
~しきる(し切る)-しきらる-しきられる(仕切)
~ちぎる(ち切る)-ちぎらる-ちぎられる(千切)
-ちぎれる
~とぎる(と切る)-とぎれる(途切)
~にぎる(瓊切る)「おにぎり、にぎりひ(握飯)」
~ねぎる(値切る)
~みきる(み切る)-みきらる-みきられる(見切)
~よぎる(よ切る)-よぎらる(横切)
く(刳)-くる(刳る)-くらる(刳らる)-くられる
~ゑぐる(ゑ刳る)
け(削)-けづ(削づ)-けづる(削づる)-けづらる-けづられる
-ける(削る)-けらる(削らる)-けられる
こ(樵)-こる(樵る)「きこり(木樵)」
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貝殻や石刃、石斧を用いたさまざまな切断、切削作業を鋭い感のする「k」音で表現するカ行縁語群である。本来は一拍語「か、き、く、け、こ」であったであろう。
「け(削)」については「ける」は残らず、「けづる」という形で今日に伝わっている。これは複合語「け削+つる」か「け削-けづ-けづる」か不明である。
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「かる枯(kr)」
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か( )-かる(枯る)-からす(枯らす)-からせる「かるし/かろし軽」「からから」
-からぶ(枯らぶ)-からびる
~ひからぶ~ひからびる「ひからびる干乾*干涸」
-かるぶ(軽るぶ)
-かれる(枯れる)(涸れる)
-かろぶ(軽ろぶ)
-かろむ(軽ろむ)
~すがる(す枯る)(末枯)
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木が枯れると軽くなるとして「かるし」をここに置く。
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「から(kr)、くろ(kr)、ころ(kr)」体躯を言う(kr)縁語群。
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か(體)-から(柄)-からだ(體)」おほがら大柄、こがら小柄、なきがら亡骸、みがら身柄」
く(體)-くろ(柄)「むくろ(身柄*骸)」「くれがし(何某)」「なにくれ」
こ(體)-ころ(柄)「ころも(柄裳*衣、こころ小柄*心、みごろ身頃、こも體裳*薦(こ體+も裳)」
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「からだ」の「か」は、上記のように、「からだ」を言うカ行渡り語「か、く、こ」のひとつと考えられ、一拍語の「か」から「から」の時代を経て「からだ」へと長語化している。ここに見る「から」「くろ」「ころ」は今日も普通に使われ、ひとつの渡り語として疑問の余地なく受け入れられる。
「こも(薦)」は、今は植物の名でもあるがそれはこの語が成立して後の転用であろう。本来は二拍語「こ(體)+も(裳)」、即ち”身体を覆う着物”の意であった。原初はそれこそ”こも草”で織った衣裳であったであろう。一拍語「も(裳)」は万葉集で「裳の糸、裳の裾」などの用例が見られる。「こ(體)」はその後接尾語「ろ」をとって「ころ」と長語化し「ころも(體裳*衣)」をつくった。なお「も裳」はアイヌ語由来であることは別に述べた。
「こころ(小體*小柄*心)」は、従来「こころ」の語を過大視する傾向があり、ここはただ単純に”小さいからだ”と見てみたものである。
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「かく着(kk)、かす着(ks)、かる着(kr)、きす着(ks)、きる着(kr)、けす着(ks)、ける着(kr)、はく佩(hk)」
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か(着)-かく(着く)⇒はく(穿*佩*履)(下記)
-かす(着す)
-かる(着る)
き(着)-きす(着す)-きさす(着さす)-きさせる「きほし着欲、きもの着物」
-きせす(着せす)
-きせる(着せる)-きせらる-きせられる
-きそふ(着そふ)
-きる(着る)-きらる(着らる)-きられる
-きれる(着れる)
け(着)-けす(着す)「(神の)みけし御着」
-ける(着る)
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は(着)-はく(佩く)-はかす(佩かす)「みはかし(御佩刀)」(k-h)
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ここで最後の「は-はく(佩く)」について注記しておきたい。
「は、ひ、ふ、へ、ほ」のハ行音(拍)は、勿論いくつかの意味をもっているわけであるが、その中で別項の動詞図に見られるように広く”物と物とを引き離す”という意味をもっている。例えば「はぐ(剥ぐ)-はがす」である。ところが、動詞図ではすぐその前に上記の「はく(穿く*佩く*履く)」が出てくる。これではまるで反対で、ハ行音は「”物と物とを引き離す”という意味をもっている」という説明が説得力をもたなくなる。
だがここで和語における相通現象の登場で、上記の「かく(着く)」は(k-h)相通によって「はく」に変形し、それがハ行語として”物と物とを引き離す”語群の中に紛れ込んでいたのである。こうして「はぐ剥」語群の中に「はく(穿く)」語があることの不可解が解消される。本来的に無関係なのである。因みに「かく(着く)」は、消滅して今日に残らない。これは恐らく「かく(着く)」の「かく(掛く*懸く*舁く)」との意味的な近さから、自身は「はく」に姿を変えて生き残ったのではないだろうか。「かく(着く)」と「かく(掛く)」は本来同語であろう。
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「かく駆(kk)、かす駆(ks)、かつ徒(kt)、かる駆(kr)、き/く/こ来(ki/ku/ko)、きす来(ks)、くwu蹴(kw)、ける蹴(kr)、こす来(ks)、こゆ越(ky)、くる来(kr)、こwu蹴(kw)、はす駆(hs)、わす走(ws)」
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か( )-かく(駆く)-かくる(駆くる)
-かけす(駆けす)-かけさす-かけさせる
-かける(駆ける)-かけらふ
-かける(翔ける)「かけりyiぬ翔去;あまかける天翔、あまくもかける天雲翔」
-かす(駆す)⇒はす(馳*走)
-かつ(徒つ)「かちゆく/かしゆく、かちさむらひ徒侍、おかちまち御徒町」
-かる(駆る)〔馬を走らせる〕
き( )-きす(来す)-きさす(来さす)-きさせる
く( )-くす(来す)「くす越」
-くゆ(蹴ゆ/越ゆ)
-くる(来る)「やって来る」
-くwu(蹴wu)-くゑる「くゑはららかす蹴散」
け( )-ける(蹴る)-けらす(蹴らす)-けらせる「けとばす蹴飛、けまり蹴鞠」
-けらる(蹴らる)-けられる
こ( )-こす(来す)-こさす(来さす)-こさせる「越す、扈す、遣す、よこす(寄遣)」
-こさる(越さる)-こされる
-こゆ(越ゆ)-こyeる(越yeる)「あごye距*足越、ふしこye伏越」
-こる(来る)-こらる(来らる)-こられる
-こwu(蹴wu)-こゑる(蹴ゑる)「あごゑ踞*足蹴」
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は(馳)-はす(馳す)-はさす(馳さす)-はささく-はささける「はしこし捷」(k-h)
-はしる(走しる)-はしらす-はしらせる「はしりで/わしりで」
~さばしる(さ走る)
~たばしる(た走る)
-はする(走する)
-はせる(馳せる)
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わ( )-わす(走す)-わしす(走しす)(h-w)
-わしる(走しる)「わしりで」〔「はしる」の近世的異形か〕
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”足を交互に速く強く動かす”意のカ行渡り語である。鳥が空を「かける(翔る)」は漢語「飛翔」の影響か。
「ける(蹴る)」は、「けだす(蹴出)」があるように、ボールを蹴ることは別に素早く足を出すことを言っているようである。「くる(来る)」は、”行く”に対する”来る”という観念的な捉え方よりも、単に足を前に出す動作と見る方が当を得ているであろう。
学校文法で言う”カ変(カ行変格活用)”は動詞が次に来る語によって語尾を変えるいわゆる活用ではなく、上記カ行動詞の長語化の過程における語形変化である。サ変についても同様である。
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「かく掛*懸*舁*賭(kk)、かす架(ks)、かつ担(kt)、かる掛(kr)」
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か(掛)-かく(掛く)=かかぐ(掲かぐ)-かかげる-かかげらる-かかげられる
-かかす(掛かす)
-かかふ(抱かふ)-かかはる
-かかへる-かかへらる-かかへられる
-かかる(掛かる)-かからふ(”罹患する”意も)「かからはし」
-かける(掛ける)-かけらる-かけられる(”賭ける”意も)
-かす(架す)
-かつ(担つ)-かたぐ(肩たぐ)-かたげる
-かつぐ(担つぐ)-かつがす-かつがせる「「かた肩」の縁語か」
-かつがる-かつがれる
-かる(掛る)=かがる(縢がる)
-からぐ(絡らぐ)-からがる「こんがらがる」
-からげる「(着物の裾を)からげる」
-からぶ(絡らぶ)
-からむ(絡らむ)-からます-からませる
-からまる-からまれる
-からめる-からめらる-からめられる
~すがる(す絡る)「とりすがる、すがりつく」
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二拍動詞「かる(掛る)」は今日に伝わらなかった。
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「かく掻(kk)、かく櫂(kk)、こく扱(kk)、こぐ漕(㎏)」
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か(掻)「背中を掻く」「田を掻く」「水を掻く」
-かく(掻く)-かかす(掻かす)-かかせる
-かかる(掻かる)-かかれる
~あがく(あ掻く)(足掻く)
~いかく(い掻く)
~ひかく(ひ掻く)ひっかく」
~みがく(み掻く)-みがかる-みがかれる(磨く)
~にがく(に掻く)
~もがく(も掻く)「踠く」
-かく(櫂く)「かき/かい櫂」(k-&)「かこ楫子*水手*水夫」
こ( )-こく(扱く)-こきる(扱きる)「yiねこき稲扱、こきばし扱箸」
~しごく(し扱く)-しごかる-しごかれる「扱ごく」
-こぐ(漕ぐ)-こがす(漕がす)-こがせる
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「あがく」は、馬が「足掻く」で辞書に入ってしまっている。しかしこれは足で掻くのではなく、単なるア接語である。この動詞図に見るようにア接動詞は数多く存在し、この列島に馬がもち込まれる前からさまざまな「あがく」があったであろう。
「かく」と「こぐ」はいずれも「かき/かい(櫂)」を操って舟を”前進させる”意であろう。「かい櫂」は語中に母音拍がある珍しい語であるが、これは「かき」の音便(k-&相通)である。ところで「かこ(水夫、水手)」なる語があるが、これは櫂を操る「かこ(櫂子)」と船尾についている「かぢ楫」を操る「かこ(楫子)」と両方の意味があるようである。「かぢ楫」は不詳である。
今日「こぐ」と言えば自転車であり池のボートである。ボートの中央部に座って左右二本のオールで進めることを「こぐ漕」と呼んだのは昔の舟を進める意の「こぐ」の横滑りであろう。明治時代になって自転車が入って来て西洋人が両足でペダルを蹴出す様を見てそれを「こぐ」と呼んだのは動作をとらえたと言うより舟の連想からか。誰が自転車を「こぐ」と言い出したのか知りたいところである。
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「かさ嵩(ks)」
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か( )-かさ(嵩 )-かさぬ(重さぬ)-かさなる
-かさねる
-かさぶ(嵩さぶ)-かさばる
-かさむ(嵩さむ)
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「かず数(kz)、きず傷(kz)」
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か( )-かず(数ず)-かずふ(数ずふ)
-かずむ(数ずむ)-かずまふ
-かぞふ(数ぞふ)-かぞへる
き( )-きず(傷ず)-きざむ(刻ざむ)〔「きざむ刻」は「きだむ段」の項に入れたが、ここに入るか。〕
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その昔木の幹や泥壁に傷をつけて物を数えたり記録したりしたと考えられているが、それにもとづく(kz)縁語群である。
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「傾しぐ(ks)」
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か( )-かし( )-かしぐ(傾しぐ)-かしげる「(首を)かしげる」
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「かしら(頭)」の「かし」か。
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「かしふ呪詛、かしる呪詛(ks)」
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か( )-かし(呪詛)-かしふ(呪詛ふ)
-かしる(呪詛る)「かしり」
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「かす貸(ks)、かふ交*買(kh)、かゆ換(ky)、かる借(kr)」
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か(交)-かす(貸す)-かせる(貸せる)
-かふ(交ふ)=かがふ「交ふ」「かがひ嬥歌」「変ふ、換ふ、買ふ」
-かはす(交はす)-かはさす-かはさせる「かはせ為替」
-かはさる-かはされる「買ふ」「かはせ(為替)」
-かはる(交はる)
-かへす(返へす)-かへさす-かへさせる「ひっくりかへす、ひるかへす翻」
-かへさふ
~いかへす
~たかへす(田返す)「たがやす(耕す)」(日国)
-かへる(交へる)-かへらす-かへらせる「かへる(帰る)」」
-かへらふ
-かへらる-かへられる
~いかへる
~あかふ(あ交ふ)
~あがふ(あ交ふ)
~きかふ(き交ふ)「錯ふ」
~たがふ(た交ふ)-たがへる「たがひ(互ひ)、たがふ(違ふ)」
~wuたがふ-wuたがはる-wuたがはれる「疑ふ」
~ちかふ(ち交ふ)「誓ふ(ち+かふ交)」
~ちがふ(ち交ふ)-ちがへる「違ふ」
~まちがふ-まちがへる-まちがへらる-まちがへられる(間違ふ)
~まがふ(ま交ふ)「紛がふ」
-かゆ(換ゆ)-かyeる(換yeる)
-かる(借る)-かりる(借りる)
き(交)-きす(交す)~あきす(あ交す)-あきさす「贉す」(前金を払って買う)
-きる(交る)~ちぎる(ち交る)「契る(ち+きる交)」
~まぎる(ま交る)-まぎらふ
-まぎれる
く(交)-くふ(交ふ)-くはす(交はす)~でくはす(出交す)
-くはふ(交はふ)~まぐはふ(ま交ふ)「まぐはひ」
-くはる(交はる)
~あく(あ商)-あかぬ(あ商ぬ)-あかなふ「贖ふ」(物を買う、金品と罪を交換する)
-あかふ(あ商ふ)
-あきす(あ商す)-あきさす「贉す」〔前金を払って買う〕「あき商、あきひと商客/商人」
-あきぬ(あ商ぬ)-あきなふ「商ふ」〔売り買いをする〕
~あぐ(あ商)-あがぬ(あ交ぬ)-あがなふ「贖ふ」
-あがふ(あ交ふ)
~おく( )-おきぬ(お商ぬ)-おきなふ「補ふ」
-おきのる「賖る」〔掛け、後払いで買う〕
~おぎ( )-おぎぬ(お商ぬ)-おぎなふ「補ふ」
こ( )~おこ( )-おこぬ(お交ぬ)-おこなふ「行ふ」
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”交換する”意の語が集まっている。「貸す」と「借る」は、物々交換の意の「かふ交」の両方向の片方だけを捉えていると考えられる。類語に不詳の「いらす(貸す)」「いらふ(借る)」がある。
「うたがふ」は日国「疑う」の語源説欄にみえる「ウタガフ(心違)の義〔言元梯〕」説に寄った。「wuたがふ」である。
「あきなふ」「おきのる」などの売り買い語、それらとおそらく類語と思われる「おこなふ」の語頭の母音語「あき、おき、おこ」は統一的に解釈されなければならないが今のところ不明である。
ここに「誓ふ(ち+かふ交)」と「契る(ち+きる交)」が現われたのは偶然ではないであろう。だが現れるべくして現れたと言うには頭拍の「ち」の解明が欠かせない。
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「かし賢(ks)」
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か( )-かし( )-かしく(畏しく)-かしくむ-かしくまる
-かしこ(畏しこ)-かしこむ-かしこまる「かしこし(畏し)」
~さかし(さ畏し)~こさかし「賢し、こ賢し」
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「さかし(賢し)」はこの「かしこし」の語頭の「かし」のサ接語と見る。(ks)縁語がなければならないところであるが、不明語「かしまし(姦し)」との関連はどうか。
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「かす和(ks)、かつ搗(kt)、かつ糅(kt)」
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か( )-かす(和す)
-かつ(搗つ)〔臼でつく〕
-かつ(糅つ)-かてる〔合わせる〕「糅てて加えて」
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今日でも皮をむいた焼き栗は「かちぐり(搗栗)」であろうが、日国によればこれは12世紀の色葉字類抄にある語の由である。さらに日葡辞書には「かつ」の意として「たたき落とす、すなわち棒、木ぎれ、槍などで叩く」とある由で、そうとすれば「かつ」と「くり」とは大昔からしっかり結びついていたのかも知れない。しかし「かつ」には別に”穀類を臼で搗いて粉にする”という意味があり、「かつ(糅つ)」も視野に入れた整理が課題である。
「かす和」については日国に『「か」は「和」の漢音』とあるが、そうとすれば「かつ」との縁語性はなくなる。
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「淅す(ks)、浸つ(kt)」
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か( )-かす(淅す)-かしく(炊しく)「かしみづ淅水、かしよね淅米」
-かしぐ(炊しぐ)
-かつ(浸つ)
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考古学の教えるところによれば、今から1万6千年前、日本人は土器を手に入れた。それによってそれまで「やく焼」だけであった調理の幅が格段に広がった。まず土器に水をいれて湯を「わかす沸」ことができるようになった。それ以前は、天然の湯でなければ焼いた石を水溜りに放り込む以外に湯はなかった。次いで土器に水と食材をいれて「にる煮」ことと「たく炊」ことができるようになった。「たく炊」は穀類の粟や稗や米を水と共に加熱して「いひ飯」にすることであろう。「ゆづ湯*茹」は芋類や卵を湯に入れて加熱し食用に適するようにすることとする。ここで「やく焼」は古語であるが、「わく沸」「にる煮」「たく炊」「ゆづ茹」「むす蒸」は土器の登場以降の新語のはずである。こうした作業の中でこの「かす(淅す)-かしく/かしぐ」「かつ(浸つ)」とは何をすることか不詳である。
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「かす憔悴(ks)」
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か( )-かす(憔悴)-かしく(憔悴く)-かしかむ「かしけゆく〔痩せこける〕」「かせ」
-かしける「かしけゆく〔痩せこける〕」
-かじかむ(寒さで手足の指が動かなくなる)
-かせる(悴せる)「かせくび悴首、かせさむらひ悴侍、かせやまひ悴病」
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「かす幽(ks)、くす掠(ks)」
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か( )-かす(幽す)-かすむ(幽すむ)-かすめる「かすめ取る」「かすかす、かすか幽、かそけし」
-かすむ(霞すむ)「かすみ霞」
-かする(掠する)
-かすwu(掠すwu)-かすゐる(掠ゐる)
-かそぶ(掠そぶ)
く( )-くす(掠す)-くすぬ(掠すぬ)-くすねる
-くすむ(掠すむ)-くすめる(n-m)
こ( )-こそ( )「こそこそ」
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人目を避けてこっそり物事を行う(ks)語群と見られる。摸写語であろう。
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「かず数(kz)、きず傷(kz)」
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か( )-かず(数ず)-かずふ(数ずふ)
-かずむ(数ずむ)-かずまふ
-かぞふ(数ぞふ)-かぞへる
き( )-きず(傷ず)
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その昔、木の幹や泥壁に傷をつけて物を数えたり記録したりしたと言われるが、それにもとづく(kz)縁語群である。
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「かた堅(kt)、きた鍛(kt)、きつ緊(kt)」
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か( )-かた(堅た)-かたす(固たす)「かた形、かたし堅、かつを鰹〔かた堅+を魚〕」
-かたぬ(固たぬ)
-かたむ(固たむ)-かたまる-かたまらす-かたまらせる
-かたむる
-かためる-かためらる-かためられる
~すがた(す形 )(姿)
き( )-きた(鍛た)-きたす(鍛たす)
-きたふ(鍛たふ)-きたへる-きたへらる-きたへられる
-きたむ(鍛たむ)-きたます〔懲らしめる〕「うちきたむ打鍛」
-きつ(緊つ)「きつし(緊し)」
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「堅い」ものには「かた/かたち形」がある、と考えられる。「きたふ-きたへる」は、筋肉を堅くする意と見てここに置く。まだ鉄がなかった時代、和人の世にも軟弱な若者がいて、彼らを鍛える必要があったということになる。摸写語「かたかた」であろう。
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「かだふ(奸ふ)、かだむ(奸む)、かづす(誘す)、かどふ(誘ふ)、かどむ(廉む)、かどる(制る)」(kd)
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か( )-かづ( )-かだふ(奸だふ)-かだはむ
-かだむ(奸だむ)(心がねぢけている、悪事をたくらむ)
-かづす(誘づす)(未詳。誘う、かどわかすの意か)「かづさかづとも、かづさねも」
-かどふ(誘どふ)-かどはく-かどはかす
-かどはす(拘引する)
-かどむ(廉どむ)-かどめく(詮索する)
-かどる(制どる)(統制する)
(-こだふ) -こだはる(拘る-拘泥する)
こ( )-こだ(傾頽)-こだる(傾頽る)「ゑみこだる笑興、をれこだる折傾」
-こづむ(偏づむ)
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「こだる」は問題があるかも知れない。
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「かつ語(kt)、くつ口(kt)、こつ託(kt)」
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か( )-かつ(語つ)-かたる(語たる)-かたらふ「かむがたり神語、しひがたり強語、ものがたり物語」
く( )-くつ(口つ)「くち口」
こ( )-こつ(託つ)=こごつ(小言つ)「こごと小言、のりごつ(令*宣)」
-こたふ(答たふ)-こたへる
-こたゆ(答たゆ)-こたyeる
~かこつ(か言つ)「喞つ*詫つ」
-ごつ(言つ)「のりごつ(令*宣)」
-こと(言と)「みこと(御言*命*尊)」「こと言、こごと小言、ことば言葉」
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口と口から出る言葉を言うカ行渡り語である。「かつ(語つ)」「くつ(口つ)」の用例はなさそうであるが、もしこの括りが成立するとすれば、なければならないところである。
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「かづ(潜づ)」
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か(潜)-かづ(潜づ)-かづく(潜づく)
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「かぬ/かなふ叶*兼(kn)」
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か( )-かぬ(叶ぬ)「かね/がね、おとどがね大臣叶、きさきがね妃叶、むこがね聟叶、めがね目叶*眼鏡」
-かなふ(叶なふ)-かなへる-かなへらる-かなへられる
~まかなふ「賄う」「適ふ」
-かなる(叶なる)
-かねる(兼ねる)
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「めがね」は通説に従って16世紀に西洋からもたらされたものとして、それを「めがね」と呼んだ人の国語力に驚かされる。それとも当時も「むこがね」のような語が通用していたのであろうか。「お目がねにかなう」という言い方が今日も行われているが、これは「目がね」を踏まえてはじめて理解される。ところで「目にかなう」と言えるかどうか。
聟 (彼は)聟にかなふ
聟がね (彼は)聟がねにかなふ
目 (彼は)目にかなふ
目がね (彼は)目がねにかなふ
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「かぬ屈(kn)、かふ屈(kh)、かむ屈(km)、くく潜(kk)、くす屈(ks)、くつ屈(kt)、くむ屈(km)、くる屈(kr)、こぐ屈(㎏)、こす凝(ks)、こぬ(屈ぬ)、こふ氷(kh)、こぶ凝(kb)、こむ籠(km)こゆ凍(ky)、こゆ臥(ky)、こる凝(kr)、こwu臥(kw)」
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か( )-かぬ(屈ぬ)=かがぬ(屈がぬ)-かがなふ「屈なふ/僂なふ」
-かふ(屈ふ)=かがふ(屈がふ)-かがふる
-かむ(屈む)=かがむ(屈がむ)-かがまふ
-かがまる(ちぢかむ/しじかむ-ちぢかまる/しじかまる)
-かがむる(これが「かうむる(蒙る)」に転じたか)
-かがめる
-かまる(屈まる)「わだかまる(蟠る)、かまりものみ斥候、くさかまり草屈、ふせかまり臥屈」
-かむる(冠むる)
-かぶる(冠ぶる)
~あがむ(あ屈む)-あがまふ「崇む」
-あがめる-あがめらる-あがめられる〔身を屈めて相手を上げる意〕
~さがむ(さ屈む)「しゃがむ」
~しかむ(し屈む)-しかめる(顰める)
~をがむ(を屈む)-をがます-をがませる「拝む」(「をろがむ」の形も)
-をがまる-をがまれる
き( )-
く( )-くく(潜く)-くくす(屈くす)
-くす(屈す)=くぐす(屈ぐす)「うちくす打屈」「くぐせ屈背*傴僂」
-くつ(屈つ)=くぐつ(屈ぐつ)「くぐつ傀儡」
-くむ(屈む)=くぐむ(屈ぐむ)-くぐまる「くま隈、くみど、くむしら隩区、くぐせ、せくぐまる背屈」
-くぐめる
-くぐもる
~はぐくむ「育む」
-くまる(屈まる)「wuづ-くまる」
-くもる(隠もる)-くもらふ
~すくむ(す屈む)-すくます-すくませる「竦む」
-すくめる
-くる(屈る)=くぐる(潜ぐる)-くぐらす-くぐらせる「潜る」
~こく(こ漏)
~もぐ(も漏)-もぐる(潜ぐる)-もぐらす-もぐらせる
け( )-けす( )-
-ける( )-
こ( )-こぐ(屈ぐ)-こがす(屈がす)-こがせる
-こぎゆ(屈ぎゆ)-こぎyeる
-こす(凝す)=こごす(凝ごす)「凍ごす」「にこす煮凍/煮凝」「岩が根のこごしき山に」
-こぬ(屈ぬ)=こごぬ(屈ごぬ)-こごなる(跼る)「こごなりかがむ跼屈」
-こむ(籠む)=こごむ(籠ごむ)-こごまる「こも薦」
-こごめる
-こまる(籠まる)-こまらす-こまらせる「困る-困らす-困らせる」「ちぢこまる」
-こまれる「(打ち/付け/詰め)込まれる」
-こめる(籠める)-こめらる-こめられる
-こもる(籠もる)-こもらす-こもらせる「よごもり夜隠」
-こもらふ「こもりく隠国、こもりづ/こもりど隠処、こもりぬ隠沼」
~かこむ(か籠む)-かこまる-かこまれる「囲む」
~しこむ(し籠む)-しこまる-しこまれる
~つこむ(つ籠む)「つっこむ」
-こゆ(臥ゆ)-こやす(臥やす)「こyiふす臥伏、こyiまろぶ臥転」
-こやる(臥やる)
-こwu(臥wu)
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ここには”身を低くする”意のカ行縁語動詞がまとまっている。身を低くする、丸くする意は原初一拍語「か、く、こ」で表され、それが長語化したカ行の縁語動詞群である。
ここで、上に見るように、三拍語「あがむ(崇む)」と「をがむ(拝む)」が共に「かむ(屈む)」にもとづくア接語、ヲ接語であることに注意したい。このことは、和人が尊きもの(神)を前にしたときは、相手をもち上げるのではなく、逆に自らを低くすることを意味している。
また別に論ずるが、この枠内に挙げたカ行動詞群は、「かふ屈」-「はふ這」、「くす屈」-「ふす伏」など(k-h)相通現象によってそっくりハ行動詞に移っている。
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「かふ支(kh)、かふ飼(kh)」
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か( )-かふ(支ふ)=かかふ(抱かふ)-かかはる(飼ふ)「すぢかひ(筋交)」
-かかへる-かかへらる-かかへられる
~つかふ(つ支ふ)-つかへる〔頭が梁に”つかへる”〕
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したかふ(下支ふ)-したかはす-したかはせる-したかはせらる-したかはせられる「従ふ」
-したかへる-したかへらる-したかへられる
つきかふ(突支ふ)「つっかふ-つっかへる」
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犬を飼う、蚕を飼うというときの「かふ(飼ふ)」は、動物に餌や水をやって生命を支えることであり、天井を支えることなどを言う「かふ(支ふ)」と同じと考えたもの。植物を育てることを「かふ(飼ふ)」と言わないのは和人の生命観を示すか。類語に「さふ(支ふ)=ささふ」がある。
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「かふ肯(kh)」
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か( )-かふ(肯ふ)-かへす(肯へす/かへんす/がへんず)-かへずる(がへんずる)(うけがふ、肯定する)
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日国「がえんずる」の語誌欄には、この語を「「かえにす(不肯)」の変化した語」と規定して、詳細かつ複雑な説明がある。その説明はあまりに入り組んでいて、理解不能である。複雑化の根源は「かへにす」の存在とその「に」のとり扱いにある。ここは一旦「かへにす」を忘れ、簡明な上図に戻ることによって全てが説明されているであろう。
ただこの「かふ(肯ふ)」に縁語がないことには納得がいかない。「かつ(勝つ)」とか「かぬ(叶ぬ)」とか似たような単独の二拍動詞を集めて縁語群を見出したい。
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「かぶ頭(kb)、くび首(kb)」
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か( )-かむ(頭む)-かむる(被むる)-かんむる「冠る、かんむり冠」
かぶ(頭ぶ)-かぶく(傾ぶく)-かぶける
-かぶす(傾ぶす)-かぶさす-かぶさせる「wuなかぶす頸傾」
-かぶさる-かぶされる
-かぶせる-かぶせらる-かぶせられる
-かぶる(被ぶる)-かぶらす-かぶらせる
く( )-くび(首 )-くびる(縊びる)-くびらる
-くびれる
-くぼ(窪 )-くぼむ(窪ぼむ)-くぼます-くぼませる
-くぼまる
-くぼめる
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語形だけでそろえたもので無理が感じられる。
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「かゆ離(ky)、かる離(kr)」
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か(離)-かゆ(離ゆ)
-かる(離る)-からす(離らす)「めかれ(目離れ)」
-かれる(離れる)
~あかる(あ離る)
~くがる(く離る)~あくがる(あく離る)-あくがれる「憧れる」
~こがる(こ離る)~あこがる(あこ離る)-あこがれる{憧れる」
~さかる(さ離る)~いさかる(m17)「とほさかる(遠ざかる)」
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日国の「あこがれる」の語釈によれば「居所を離れてさまよう。また、あるものに心をひかれて、出かける。」ということで、これは上図がよく説明している。まず「かる」で(居所を)離れる意を表し、離れるには”歩く、さまよう”ことが伴う。時代を経て「かる」が何らかの意を付すために発語「く/こ」をとって「くがる、こがる」となり、さらに「あ」をとって”心をひかれる”意をつけ加えたということであろう。ただ「さかる」が示すように、「あかる」の「あ」も単なる接頭語である。これが五拍語「あくがれる/あこがれる」の時代になると、おそらく「離る」の意は忘れられただ”憧憬”を言う語となり、語源説にも「アは赤、火で焦がれる思いをする意〔和句解〕」(日国)が現われるようになった。
こ( )-こぐ(焦ぐ)-こがす(焦がす)-こがさる-こがされる
-こがる(焦がる)-こがれる
~あこがる-あこがれる(憧る)
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「かる刈(kr)、かる狩(kr)、きる切(kr)、くる刳(kr)、ける削(kr)、こる樵(kr)」
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か(刈)-かる(刈る)-からす-からさす-からさせる-からさせらる-からさせられる
-からさる-からされる
-からせる-からせらる-からせられる
-からる-かられる
~いかる(い刈る)
-かる(狩る)-からす-からせる
-からる-かられる
き(切)-きる(切る)-きらす(切らす)-きらせる
-きらふ(切らふ)-きらはる-きらはれる「嫌らふ」
-きらる(切らる)-きられる
-きれる(切れる)
~かぎる(か切る)-かぎらる-かぎられる(限る)
~くぎる(く切る)-くぎらる-くぎられる
~しきる(し切る)「とりしきる」
~ちぎる(ち切る)-ちぎらる-ちぎられる
-ちぎれる
~とぎる(と切る)-とぎれる
~にぎる(に切る)「握る」
~みきる(み切る)-みきらる-みきられる「見切る」
~よぎる(よ切る)「横切る」
く(刳)-くる(刳る)-くらる(刳らる)-くられる「くりぬく刳抜」
~さくる(さ刳る)
~ゑぐる(ゑ刳る)-ゑぐらる-ゑぐられる「抉る」
け(削)-けづ(削づ)-けづる(「削づる」は「け削+つる/する擦」か。「ける削」は今日に残らなかった。)
-ける(削る)
こ(樵)-こる(樵る)「きこり木樵」
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和人が生きのびるために草や木や獣(毛もの)に向かって刃物を振るって倒し、切断や分解を行おうとするカ行渡り語「か/き/く/け/こ」である。刃物とは言え当初は石器であり貝殻であった。上記の語群はやはり鉄器が使われるようになって整ったものであろう。「ゑぐる」の「ゑ」はそれ自体で”くりぬく”意の一拍語である。
これらの切削五語は和語、琉球語、アイヌ語を通じてきれいな対応が見られる。
和語 琉球語 アイヌ語
かる(刈る) かゆん か、から
きる(切る) ちゆん ちゃ、ちし
くる(刳る) ぐゆん --
ける(削る) -- け
こる(樵る) -- ほせ
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「かる枯(kr)」
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か( )-かる(枯る)-からす(涸らす)-からせる「涸る」「かるし/かろし軽し」「からから」
-からぶ(涸らぶ)-からびる
~ひからぶ-ひからびる(干乾*干涸)
-かるぶ(軽るぶ)
-かれる(涸れる)「かれる(涸*枯*渇)」
-かろぶ(軽ろぶ)
-かろむ(軽ろむ)-かろみす-かろんずる
~すがる(す枯る)-すがれる「末枯る」
--
草や木は、動物も、水が「かれ(涸渇)」て或いは「きれ(遮断)」て「かれ(枯死)」て「かる(軽る)」くなる。この状況は「からから」の一語で表されているように見える。「からから」の前は一拍語「か、か」か。
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「かる着(kr)、きす着(ks)、きる着(kr)、けす着(ks)、ける着(kr)」
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か(着)-かる(着る)
き(着)-きす(着す)-きさす(着さす)-きさせる「きほし着欲、きぬ衣、きもの着物」
-きせす(着せす)
-きせる(着せる)-きせらる-きせられる
-きそふ(着そふ)
-きる(着る)-きらる(着らる)-きられる
-きれる(着れる)
け(着)-けす(着す)「みけし御着」
-ける(着る)「我が背子が著(け)る衣(きぬ)薄し佐保風はいたくな吹きそ家に至るまでm979」
--
和語では上図のように「着物を着る」とカ行語で言うが、アイヌ語では”着る”は「み」、”着物”は「あみぷ」で共にマ行語である。ところで和語にも「ころも(躯裳*衣)、はかま(袴)、ふすま(衾)」のように”着る”関係語がマ行語であるものが少なくない。このことは、他の例も参照して、”着る”に関してはアイヌ語に見るマ行語が本来の(原始日本語の)表現である蓋然性が高い。和語の”着る”などの上記のカ行語は原始日本語が和語、琉球語、アイヌ語の三語に分岐した後の和語における独自の発展と考えられる。因みに琉球語の「着る」は和語と同じ「きるん、ちゆん」である。
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● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●(ききき)
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「き/く/け奇(ki/ku/ke)」
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き(奇)「き奇、きなり」
く(奇)「くし奇、くすし薬師」
-くし( )-くしぶ(奇しぶ)
-くす( )-くすす(奇すす)「くすし(薬師)」
-くす( )-くする(奇する)「くすり(薬)」
け(奇)「けし異、けなり」
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奇異、怪異を言うカ行渡り語「き/く/け(奇*怪*異)」である。日国「くすり」の語源説欄に『クス・クシ(奇)の義から〔東雅・勇魚鳥・松屋叢考・箋注和名抄・俚言集覧・言元梯・本朝辞源=宇田甘冥〕』とよく理解されていたようである。大伴旅人に「我が盛りいたく衰(くた)ちぬ雲に飛ぶ久須利(くすり)はむともまた変若(をち)めやもm847」の歌がある。
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「きく聞(kk)」
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き( )-きく(聞く)-きかす(聞かす)-きかせる-きかせらる-きかせられる
-きかゆ(聞かゆ)
-きかる(聞かる)-きかれる
-きける(聞ける)
-きこす(聞こす)「きこしめす、きこしをす」
-きこゆ(聞こゆ)-きこyeる
-きく(効く)-きかす(効かす)-きかせる
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”耳で聞く”は、”目で見る””口で食ふ”とは異なり、器官の名「みみ耳」と動詞「きく聞」は無関係な語である。おそらく「みみ」が本来語であるのに対し「聞く」は後から来て前の語を押しのけた異質の語と思われる。事実「聞く」には”聞き酒、香を聞く、聞こし召す”などの成句があり、また人に道を”きく”、親の言いつけを”きく”、その結果よく「効いた」などとも使われる。薬が「きく(効く)」も「聞く」と無関係ではなさそうである。これらは耳で音を「きく」とは直接にはつながらない。
ここではなはだ突然であるが、上記「みみ」と「きく」の話題に関連して、顔面の部位・器官の名称とその働きを言う動詞について、和語、琉球語、アイヌ語三語の一覧表を下に掲げる。読者におかれてはおそらく初めて目にするもので何のことかと思われるであろうが、本稿で関連語が登場するたびにこの表を思い出してここに戻っていただければ徐々に理解されるものと信じる。同じ日本語である。因みに原始日本語の段階では顔面の器官とその働きは下のアイヌ語に見られる一拍語「ぬ」とその縁語群で捉えられていたと考えられる。詳細にわたっては本稿の各所で述べる。
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| 和語 | 琉球語 | アイヌ語 |
--------------------------------------------|
顔 |かほ顔、おも面、つら面 |かう顔、うも面、ちら面 |なん、ぬ |
額 |ぬか、ひたひ |ぬこー、むこー |のyiぽろ |
----------------------------------------|
目 |め |みー |ぬ(目)、しき(目) |
見る |にる(睨る)-みる(見る)|ぬーん、んじゅん |ぬから |
----------------------------------------|
耳 |みみ |みみ |(きさら) |
聞く |きく |ちちゅん、うんぬかいん |あぬ、いぬ、こぬ |
----------------------------------------|
鼻 |はな |はな |(えとぅ) |
嗅ぐ |かぐ、にほふ |にゐ |ぬ |
----------------------------------------|
口 |くち |くち |ちゃろ、ぱろ |
喉 |のど |ぬーでぃ |(くつ、れくつ) |
飲む |のむ |ぬぬん |(く、いく) |
----------------------------------------|
吸ふ |すふ |すうゆん |ぬ |
-----------------―---------------------------
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「きしきし(ks)、ひしひし(hs)」
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き( )-きし(軋し)-きしむ(軋しむ)-きします-きしませる「きしきし」
-きしめく
-きしる(軋しむ)-きしろふ〔争い競う〕
ひ( )-ひし( )「ひしめく」(k-h)
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摸写語である。「き」と「ひ」ではどちらが先でどちらが後か。
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「きた分(kt)、きだ段(kd)、くづ崩*砕(kd)、くゆ崩(ky)、けづ削(kd)」
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か( )-
き(分)-きた(分 )-きたむ( )「おほきた/おほいた大分、みきた三段」(k-&)
-きだ(段 )-きだむ(段だむ)「きだ段、きだ鰓、きだきだ、ななきだ七段、みきだ三段」
-きざむ(刻ざむ)(d-z)
く(崩)-くづ(砕づ)-くだく(砕だく)-くだかる-くだかれる「くづ屑、おがくづ、のこくづ鋸屑」
-くだける
-くだす(降だす)-くださる-くだされる
-くだつ(降だつ)
-くだる(降だる)
-くづす(崩づす)-くづさす-くづさせる
-くづさる-くづされる
-くづふ(崩づふ)-くづほる-くづほれる
-くづる(崩づる)-くづれる
-くゆ(崩ゆ)-くやす(崩やす)
-くyeる(崩yeる)「くye崩、いはくye岩崩」
け(削)-けづ(削づ)-けづる(削づる)-けづらる-けづられる「ゆげ弓削、けづりかけ」
こ( )-
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固いものを砕き、崩す(kd)語群である。「くだらない」は”くだ、くづ”がいっぱいの意と考えられる。かねて「け(削)」に「ける(削る)」がないことが不審であったが、上図によれば物を砕く意の一拍語「き」「く」「け」のいずれにも「る」動詞がない。「ける」がないことはひとり「け」だけの問題ではないのかも知れない。また「か」「こ」がなければならないところである。
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「き際*極(ki)、きす際(ks)、きふ極(kh)、きむ決(km)、きる極(kr)」
--
き( )-きす(際す)-きそふ(競そふ)-きそはす-きそはせる
-きふ(際ふ)-きはむ(際はむ)-きはまる「きは際、きはどし際どし、きはみ極、きへ寸戸」
-きはめる-きはめらる-きはめられる
-きはる(際はる)「たまきはる、としきはる」
-きほふ(競ほふ)-きほはす
-きむ(決む)-きまる(決まる)
-きめる(決める)-きめらる-きめられる
-きる(極る)「きり限」
--
”極限”を言う「き」である。「きむ-きまる/きめる」は、あれこれ悩んでいてついに極限まで追い詰められ右か左か決めざるを得なくなって「きまる、きめる」の意味が生まれてきた。
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「きよ清(ky)、けや尤(ky)、こよ清(ky)」
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き( )-きよ(清 )-きよむ(清よむ)-きよまふ-きよまはる「きよし清」
-きよまる
-きよめる-きよめらる-きよめられる
け( )-けや(尤 )「けや/けやか/けやけし」
こ( )-こよ(清 )「こよなし」
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「きよ/きよし」は、「けや/けやか/けやけし」の「けや」、「こよなし」の「こよ」と(ky)縁語の関係にある。同時に(ky)子音コンビ語である。「けや」は日本書紀に”貴(ケヤカ)”で登場する由である。「こよ」は戦後間もなく流行したサトーハチロー作詞の「長崎の鐘」の「こよなく晴れた青空を悲しと思うせつなさよ」で広く知られるようになった。「こよなし」は「こよ」がいっぱいの意で、この語を知らなくとも日本人であれば耳にしただけで理解することができた。
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「きる鑚*錐(kr)」
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き( )-きる(鑚る)「(火)きり、ひきりうす火鑚臼、ひきりきね火鑚杵」「きりきり」
-きる(錐る)「きり鑚*錐」
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この「きる」は、細い木の棒を両の手の平に挟んできりきり回して”火を熾す”である。まず「き-きる」で火をおこすことを言い、次いで翡翠などの貴石に鉱砂を利用して穴をあけて勾玉(まがたま)を作るような作業にも転用されたであろう。やがて金属時代に入って鉄の針を木の棒の先につけて穴を開ける「きり錐」になったと考えられる。
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● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●(くくく)
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「くく括(kk)、ふくむ含(hk)」
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く(括)-くく(括く)-くくす(括くす)
-くくむ(包くむ)-くくまる
-くくもる「羽ぐくむ-羽ぐくもる」
-くくる(括くる)-くくらる-くくられる
-くける(絎ける)
ふ( )-ふく(括く)-ふくむ(含くむ)-ふくまる-ふくまれる(h-k)
-ふくめる
-ふふ(括く)-ふふむ(含ふむ)(h-k)
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「くす黒(ks)、くむ黒(km)、くる黒(kr)、くら暗(kr)、くろ黒(kr)」
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く(黒)-くす(黒す)-くすむ(黒すむ)-くすます-くすませる
-くむ(黒む)-くもる(曇もる)-くもらふ「くも雲」
-くる(黒る)-くらす(暮らす)「日を暮らす(暗らす)、夜を明かす」
-くらむ(眩らむ)-くらます-くらまさる-くらまされる
-くらませる-くらませらる-くらませられる
-くるふ(狂るふ)-くるはす-くるはせる
-くれる(暮れる)
-くろむ(黒ろむ)-くろます
--
く(暗)-くら(暗 )「くらし暗、くらおかみ闇靇、くらみつは闇罔象」
くり(涅 )「くり涅、くりいし涅石」
くる(苦 )「くるし苦」
くれ(暮 )「ひぐれ日暮、ゆふぐれ夕暮、このくれ木晩闇」
くろ(黒 )「くろし黒、くろいかつち黒雷、くろがね黒金、くろかみ髪、くろき酒」「はらぐろ(腹黒)」
--
和語では「黒」は「白」とともに単なる色の名前ではない。白は白色を言うことはもちろんであるが新しいこと、正しいことを言う。反対に黒は暗いこと、苦しいこと、不正なことを言うであろう。例を挙げるまでもなく、白黒をつける、黒幕、腹黒などなど白と黒の意味合いははっきりしている。
「くるし苦」「くるふ狂」は仮にに置いてみたもの。
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「くたくた(kt)」
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くた( )-くたばる「くたくた」
-くたびる-くたびれる「草臥れる」
-くたぶる
--
多くの摸写語動詞の例としてあげてみたもの。この場合「く-くつ朽-くちる」との関係を見るか。
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「くな/くだ管(kn/kd)」
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く( )-くな(管 )-くなぐ(管なぐ)-くながふ「交合する」「かたくな(堅管)、くなたぶれ(管戯れ)」
-くだ(管 )「くだ(笛*小角*大角)」(n-d)
--
和語に特有の相通語リストの中から「くな」を見ると「くだ(管)」が浮かぶ。これだけで後は一瀉千里である。「くな」は陰茎そのもの、「くなぐ」は交合する、「かたくな」はそれが硬くなったもの、「くなたぶれ」はそれを振り回すたわけものの意であろう。「くな」は一方で記紀万葉の時代には既に「くだ」が成立しており「くだの笛」や機織りの糸を巻くパイプ状の部品などを指すようになったという。ただし(kn)語である「くな」の成り立ちは不明である。類語に不詳の「つつ筒」がある。
◆------------------------◆
「くゆ悔(km)」
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く( )-くゆ(悔ゆ)-くやす(悔やす)-くやしぶ「くyi悔、くやし(悔し)」「くよくよ」
-くやむ(悔やむ)-くやまる-くやまれる
-くyiる(悔yiる)
◆------------------------◆
「くる繰(ku/kr)」
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く( )-くる(繰る)-くらる(繰らる)-くられる(繰られる)「つまぐる爪繰」
~たぐる(た繰る)「手繰る」
~まくる(ま繰る)「捲くる」
~めくる(め繰る)「捲くる」
~もぐる(も繰る)「潜る」
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ここでは「くる」に仮に「繰る」を当てたが、もっと広く捉える必要があるであろう。「もぐる」がやや異質であるが、日国の方言欄にはさまざまな意味が示されており、当たらずとも遠からずの感がある。
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「くる呉(ku/kr)」
--
く( )-くる(呉る)-くれる(呉れる)「くれてやる」
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「く/くる転(ku/kr)、こ/こく/ころ転(kk/kr)」
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く( )-くる(転る)-くるふ(狂るふ)-くるはす-くるはせる-くるはせらる-くるはせられる「くるくる」
-くるほす
-くるぶ(転るぶ)-くるべく-くるべかす
-くるむ(包るむ)-くるまる
-くるめく-くるめかす
-くるめる
-くるる(転るる)「くるる枢」
-くろむ(転ろむ)
こ( )-こく(転く)-こかす(転かす)-こかさる-こかされる
-こける(転ける)「ずっこける」
-ころ(転ろ)-ころぐ(転ろぐ)-ころがす-ころがさる-ころがされる「ころころ」
-ころがる
-ころげる
-ころす(転ろす)-ころさる-ころされる「殺す」
-ころぶ(転ろぶ)-ころばす-ころばせる
-ころる(転ろる)
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摸写語「くるくる、ころころ」をもとにする語群である。
「くるふ狂」はここでも問題である。また「殺す」も難題で、刃物による「刈る、切る」などの(kr)縁語はこれはどうも当っていそうにない。大昔にかえってみると、獲物を見つけてそれを手に入れるのは槍や矢を用いて「倒ふす」(地に伏させる)ことであり、それだけでなく相手の首を絞めることもある。要は相手を地に”転がす”ことではないか。そうとなれば「転ろす」はここに来ることになる。日国の語源説欄に「コロガス、コロバス(転)の義〔名言通・和訓栞〕」が見える。
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● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●(けけけ)
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け( )-けし( )「けしかく-けしかける」「けし、けしけし」
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け(化)-けす(化す)-けさふ(化さふ)「けしょう化粧」「異す」
-けする(化する)-けすらふ(化粧する)
-けふ(化ふ)-けはふ(化はふ)(化粧する)
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漢語か。「けなり」の「け(異)」と重なる。
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● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●(こここ)
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「こく痩(kk)」
--
こ( )-こく(痩く)-こける(痩ける)「やせこける痩、頬がこける」
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「こく耽(kk)」
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こ( )-こく(耽く)-こくる(耽くる)「だまりこくる、ぬりこくる、はりこくる」
-こける(耽ける)「ねむりこける、わらひこける」
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「こぐ凍(㎏)、こす凝(ks)、-こふ氷(kh)、こゆ凍(ky)、こる凝(kr)」
--
こ( )-こぐ(凍ぐ)-こぎゆ(凍ぎゆ)
-こす(凝す)=こごす(凍ごす)「にこす、にこごし煮凍*煮凝」
-こふ(氷ふ)=こごふ(凍ごふ)-こごへる
-こほる(氷ほる)-こほらす-こほらせる「こほり氷」
-こゆ(凍ゆ)=こごゆ(凍ごゆ)-こごyeる
-こやす(凍やす)「にこやし(煮凍)」
-こやる(凍やる)
-こよす(凍よす)
--
こ( )-こる(凝る)=こごる(凝ごる)-こごらす-こごらせる「にこごり煮凝」
-こらす(凝らす)-こらせる
-こらふ(凝らふ)-こらへる
-ころふ(凝ろふ)「ひころふ孛/火凝」
~しこる(し凝る)「しこり」
--
摸写語「こちこち、こつこつ、こりこり、こんこん」などの「こ」であろう。「かたい堅*固」や「きたふ鍛」などの堅いものを言うカ行縁語群のひとつである。上記によればその中でも水が氷となって凍結する「こぐ、こす、こふ、こゆ」と普通に凝固する意の「こる」とに分かれるようである。
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こ( )-こす(濾す)-こさる(濾さる)-こされる
-こす(越す)-こさる( )-こされる
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「こず抉(kz)、ほず穿(hz)」
--
こ( )-こず(抉ず)-こじる(抉じる)-こじらす-こじらせる
-こじれる
~いこず(い抉ず)
ほ( )-ほず(穿ず)-ほじる(穿じる)(k-h)
-ほぜる(穿ぜる)
◆------------------------◆
「こは壊(kh)、こほ壊(kh)、こぼ零(kb)、こぼ毀(kb)、こば壊(kb)」
--
こ( )-こは(壊は)-こはす(壊はす)-こはさる -こはされる
-こはる(壊はる)-こはれる
--
-こほ(壊ほ)-こほす(壊ほす)
-こほつ(壊ほつ)(万1556、名義抄他)
-こほる(壊ほる)(万2644、仁徳紀4年、名義抄他)
-こぼ(毀ぼ)-こぼす(毀ぼす)(竹取物語他)
-こぼつ(毀ぼつ)-こぼたる(舒明紀10年、枕草子他)
-こぼる(毀ぼる)-こぼれる「はこぼれ刃毀」
--
-こわ(壊わ)-こわす(壊わす)-こわさる -こわされる
-こわる(壊わる)-こわれる
-こを(毀を)-こをつ(毀をつ)
-こをる(毀をる)
--
「こはす」と「こわす」は不明である。
◆------------------------◆
「こふ乞(kh)、こぶ媚(kb)」
--
こ( )-こふ(乞ふ)-こはす(乞はす)「こひなく乞泣、こひねがふ冀*庶幾*乞願、こひのむ乞禱」
-こはる(乞はる)-こはれる
-こぶ(媚ぶ)-こばす(媚ばす)「こびひと侫人」
-こばむ(媚ばむ)
-こびる(媚びる)-こびらる-こびられる
--
「こふ」「こぶ」と清濁の対立が見られる。
◆------------------------◆
「こふ恋(kh)」
--
こ( )-こふ(恋ふ)-こほす(恋ほす)
-こほる(恋ほる)
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「こむ(澇む/浸む/漲む)」
--
こ( )-こむ(澇む)〔田に水が入り浸る〕
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「こゆ(肥ゆ)」
--
こ( )-こゆ(肥ゆ)-こやす(肥やす)「こye肥、こやし肥」
-こyeる(肥yeる)
◆------------------------◆
「こる(懲る)」
--
こ( )-こる(懲る)-こらす(懲らす)-こらしむ-こらしめる
-こらる(嘖らる)
-こりる(懲りる)
-ころす(殺ろす)-ころさる-ころされる
-ころふ(嘖ろふ)-ころほふ「嘖ろふ」〔叱嘖する〕
--
難語である「ころす殺」はここか。
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