日本語では藍色は「あゐ(藍/&a-wi)」、青色は「あを(青/&a-wo)」である。ところがこれには別形があって、「あゐ」には「あぢさゐ(紫陽花)」などの「さゐ」、「あを」には「まっさを(真青)」などの「さを」があり、それぞれ並行して使われている。
まず「さゐ」「さを」であるが、これが表わすところのおそらく複雑で微妙な色の違いはここではおいて、両者は子音コンビ(sw)を共有する縁語である。もとは何か別の或いはどちらか一方の同語と考えられ、必要にせまられてそれを「さゐ」と「さを」に言い分けるようになったと考えられる。
日本語では、さきに”新しい”という意味の「さら」「しろ」には子音「s」が共通し、これが”新しい”という意味を表わし、かつ両語は”縁語”と呼ばれることを述べた。同様に子音ふたつを共有する語も同じ意味をもつ場合が多く、その二つの子音を”子音コンビ”と呼ぶ。ここでは(sw)がそれである。この例は今後このブログでも頻出するので、そのたびに指摘する。
さてこの青系の色を指す「さゐ、さを」を説明するにはアイヌ語が欠かせない。アイヌ語では”青”は「しうにん(siwunin)」である。例えば”青い花”は「しうにん-のんの」という。この「しうにん」は前項の「しう(siwu)」が意味をもつ語幹で後項の「にん」は語尾である。ここで「しう(siwu)」には子音コンビ(sw)が見られ、和語の「さゐ、さを」と合致する。
これを要するに原始日本語の段階では青系の色を何か(sw)語で表現していたものを、それを和語では「さゐ/さを」、アイヌ語では「しう(しwu)」の形で今日に保持してきたということである。和語では「さゐ/さを」が「あゐ/あを」に変化したが、これは例の多い(s-&)相通現象である。「さめ(雨)」が「あめ」になったのもこれと思われるが、残念ながらこちらは未解明である。
琉球・沖縄語では「あゐ」を「えー」、「あを」を「おー」とたいへん簡素化している。これにも長い変化の歴史があるであろう。
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| 和語 | 琉球・沖縄語 | アイヌ語
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藍(色) |さゐ/あゐ |えー | |
青(色) |さを/あを |おー(おーさん、おーるー) |しうにん(しwuにん) |
黒・暗 |くらし、くろし |くるー、くるさん |くんね、くろ |
新・白 |さ/さら、し/しろ |さ/さら、し/しるー、し/しろさん|し/あしり(新しい) |
名・名前 |な(音) |なー |れ〔「ね音」の(n-r)相通形〕 |
花(ナ行語)|のんの |のーのー |のんの |
宣告 |のる、のり、のりと祝詞|のろ、ぬる、ぬーる、いぬゆん|のみ(祈み) |
花(ハ行語)|はな |はな |あぱっぽ、えぷい、(ぴらさ、へちらさ)|
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